フィルムからデジタルへ、写真や映像にとって激動の時代
4年程前、あるお客様がご来店されたときのお話です。
「これって、なんとかならないでしょうか?」
お持ち下さったのは、30枚近くのガラス乾板…
手札サイズで、重ねて箱に入ったまま眠っていたそうです。
ガラス乾板と言えば、フィルムの前の感光材料で、私自身は扱った経験はないのですが、
弊社にも相当数(八切サイズの大きなもの)が残っています。
そのお客様は、大掃除の時に見つけたものの、さあどうしようかと、ご近所の写真店に相談に行かれたそうです。
しかし、もはや旧式の原板なので、どうしようもないとの回答だったそうです。
次に、最新の機器を備えるカメラ店に持ち込まれましたが、ここでも「見たことがない」ということで
取り扱っていただけなかったということでした。
古くから営業されている写真屋さんは、もちろんガラス乾板のことを知っているが、
旧式のため、今どうすれば良いかが解らない…
デジタル機器を備えた新しい写真屋さんは、店頭にはアルバイトさんしかいらっしゃらず、
見たこともないガラス乾板に触れようともしない…
その狭間で、貴重な映像が記録されているであろう旧式の媒体が、再び鑑賞される機会を得ずに消えていく…
このお客様のお話をお伺いしたとき、そんな図式が頭の中に浮かび上がりました。
写真屋としての使命の一つ、それは、歴史を映像で紡ぐこと
私はこのご依頼をお引き受けしました。
ガラスと言えどもフィルムと一緒、取り扱いさえ間違わなければ画像は必ず再生できると思いました。
通常のフィルムで行うがごとく、でもガラスの方が厚みがあり画像がボケる可能性があるので、
通常とは逆の面でスキャニング、その後PC上で反転するという作業を行いました。
もちろん、膜面の傷やヌケはPC上で修整処理を行いました。
すると…生き生きとした美しい女性や、今でも通用するくらいおしゃれに着飾った男性の写真が
本当に鮮やかに蘇ったのです。
お客様の祖母様のお若い時分のお写真、ご婚約時から挙式前の時代であることが解りました。
「○○小町と呼ばれてたんだと、話には聞いてましたが、確かにかわいいですね〜」と、お客様も
それまで見たことのなかった祖母様の若い時のお写真に、随分と驚かれていました。
一つ、写真屋としての使命を果たした充実感をいただきました。
思い出は人生を豊かにする
デジタル写真時代になって、未だかつて無いくらいの数の写真が世の中に出回っています。
多くの人が、「写真カメラ」と「ビデオカメラ」と「電話」を常に持ち歩く時代、
でもそれらの映像が持つ価値は、昔と何ら変わらないんだと思います。
「思い出は人生を豊かにする」…そのことを多くの方々が意識することなくご存じなんだと…
私どもの知識や経験で、多くのお客様の人生を豊かにする一助となるよう、
これからも努力と研鑽を積んでまいりたいと考えております。
京都・中尾写真場
【フォトドクター】 中尾好宏